裕子先生の家族日記

直也の春が来た!

直ちゃんはもうすぐ一年生になる。ランドセルが直也を待っている。ひらがなを読んだり書いたりする事にもようやく興味を持つようになっている。
抜けた二本の前歯が直也の顔を“一年生になるんだよ”と言っている様に見えて面白いのだ。
「まだ歯が出てこないの?」などと口をのぞき込んでみる。それも今だけの成長の一部として貴重に思える。

桜の花ももう咲きそうだという。九十四才のシズおばあちゃんにも初々しい直也のランドセル姿を見てもらった。
「いいランドセルだね!」と嬉しそうだった。
おばあちゃんは直也という名前だけは頭に入らなかった様で
「直ちゃん!」と声を出す事はなかった。が、周りにいる夫の修、孫になる直ちゃんの母である裕希、嫁の私の顔を嬉しそうに見回していた。
春になる。そして桜が咲いたら、又おばあちゃんを車イスに乗せて桜の下を散歩しよう。もうすぐそこに来ている暖かなぬくもりが嬉しい。
直也はサッカー部に入っている。朝寝ている所を父親に起こされ、泣いて出かけていったという。帰ってきた時はニコニコと元気にアイスを持って帰ってきた。何が嬉しいのかニコニコ顔になっている。
じっとしていない。テレビはドラえもんが映っていた。母親にくっついて甘えている。自由な直也がいた。
又、別の日に八山家と食事に行った時のこと。食事が終わる頃になった時、結ちゃんがトランプを出した。すかさず直也がテーブル(テーブルの下に足を入れるので、テーブルは低い)の上に乗っかり、
「ババ抜き!ババ抜き!」という。
「私は抜けるんだ!」と叫ぶと、笑って手を引っ張った。何と生き生きしている事だろう。
カードを取る度に一喜一憂という有様。
「ババ!」
立ち上がってカードを抜いて興奮する。どんなに楽しいんだろう。
顔、手、指、みんな神経が行き渡り、血が通い、全身でババ抜きに入り込んでいる。ババのカードを持っても、大騒ぎでギャアギャア言っている。その姿を見ながら、みんなが楽しんでいた。
夫と私も動いた事のない血が騒いだ様に若返った気になった。
元気に明るく成長していく姿を、こんな風に楽しんでみていられる事に幸せを感じた日がある事を幸せに思いました。

(イラスト : 菊池裕子)