結ちゃんは節分の日の後日、細い棒きれを持って肌身離さず持ち歩いていた。「鬼退治ね!」と言うと“ニコッ”と笑っていた。
階段を上がる時には杖にしていたので「結ちゃん!おばあさんになったみたいね!」と言うと、「ウフフフフ」と嬉しそうに笑っていた。二才ちょっと位の頃だったと思う。
ところが直也くんは「鬼!」と言うと極端に警戒し、顔付がかわってしまう程臆病になる。
そこが直也くんの壺だ!と周りの皆が思う。
保育園で「獅子舞い」の催しがあり、私も見学の参加に行かせてもらった。最後になると皆の所を獅子が廻って、一人一人の顔を「健康と安全を願って」大きな口を開けて噛むところになると泣き声がして、ガサガサ、ザワザワとしだした。
小さい子の方から廻り始めたので、大きい方の子供達は立ち上がり動き始め、先生方がまとめるのに忙しそうになった時、直也くんがソーッと動き始め、前の方から中の方に入り、後ろに廻って獅子が通りすぎた方に移って行って、じっとしていた。顔はソーッとすましていた。
「うまくやったね!」と私はニヤリとしたと思う。
「まだ顔を噛んでもらってない子はいませんか?」先生の声がしていた。
その頃から赤鬼も青鬼もみんなこわい。おばけも妖怪もこわい。
「直ちゃん、お菓子は一つだけよ。ダメダメ。そんな事してると鬼が来るよ!」
血の気がなくなり、固まったようになった。
昨年の春頃にママが「鬼とか言うのちょっとヤメテ」と言う様になった。直也くんの異常な警戒心・反応・恐怖心が見える様になっていた。
「直ちゃん!鬼さんこちら!手の鳴る方へ!って言うんだよ」などと茶化してみたものだった。
昨日二月四日背が伸び少しお兄ちゃんらしくなってきた直也くんが店に来た。
「豆まきはどうだった?鬼が来た?」って聞くと、「鬼はパパだよ。ママがパパに赤い鬼の面を渡していたもん。鬼はパパだよ!」と断言していた。ママが「鬼さんが忙しくてパパに手伝ってって言ってお面を渡していたんだからね」直也くんは聞いていない。
「パパが鬼なんだよ!」
子供は賢くなっていく。
(イラスト : 菊池裕子)